ピッチ補正についてまずはその歴史を、ということでしたが、前回はサンプラーのお話で終わってしまいましたので、つづきです。
レコーディングの現場にも徐々にデジタル化の波が押し寄せます。
1990年代に入ると、アメリカのDigidesign社が「Pro Tools」を発表し、レコーディングスタジオに導入され始めます。
以来、プロの現場ではデフォルト、大スタンダード。
Pro ToolsはDAW(コンピューターで音楽を作る、デジタル・オーディオ・ワークステーションの略)の元祖にして大本命となりました。
アナログの音質や作業を大切に考える人というのは今でも一定数いらっしゃいますが、圧倒的に便利で合理的な録音/編集を可能にしたPro Toolsへの移行は抗えない流れだったのかもしれません。
録音データは大容量のハードディスクへ記録され、元のデータを壊すことなくさまざまな編集(ノン・ディストラクティブ編集)をすることができました。
しかしそんなPro Toolsにも、1音ごとの音程を微調整するような機能は備わっていませんでした。
そしてついに1997年、アメリカのAntares社から「Auto-Tune」が発売されます。
Wikiによると、”技師として石油会社のエクソンモービルで働いていたアンディ・ヒルデブランドは、地震データ解析用ソフトが音程の補正にも使えることを偶然発見した” とあり、その翌年にはこの技術を用いたAuto-Tuneが製品化されています。
地震データ解析用ソフトが音程の補正にも使える??
マジか〜〜、ぜんぜん関係ねーじゃん。www
とにかく、今ではレコーディングスタジオのPro ToolsにはAuto-Tuneがプラグインとして入っている(Pro Tools内でAuto-Tuneが使えるようになっている)のが当たり前です。
Pro ToolsがDAWの元祖にして大本命なら、ピッチ補正ソフトの元祖にして大本命がこのAuto-Tuneです。
なんなら「ピッチ補正」という言葉や行いは知らなくても、Auto-Tuneは知っている、という方もいらっしゃるのでは?
まぁ、それには本来のピッチ補正とは別の理由がありまして。
オートチューンを用いてムリクリにピッチ矯正をすると、原音が歪んでそれを「ケロった」なんて言うんですが、試しに思いっきりケロケロさせてみたら面白い効果が得られたんですね。
もはやエフェクターです。
この効果を使った曲が次々とヒットしまして、「あの声はなんだ?どーやってるんだ?」「あれはじつはオートチューンってのを使っててね…」という具合にその名前が知れ渡っていった、と。
Auto-Tune、もう20年以上経っているんですね…。
もちろんその間に、他社からもピッチ補正ソフトがいくつも発売されました。
中でもCelemony社のメロダイン(Melodyne)などはDTMをする人にはよく知られたピッチ補正ソフトです。
DAWソフトのStudio Oneにはメロダインがプラグインとして付いてきます。
また、CubaseやLogic ProといったDAWソフトにはピッチ補正機能が備わっています。
私がAuto-Tuneを初めて使ったのは16年前くらいかな。おそらくは最も話題になっていた頃ですね。
そのときはそりゃもう、感動!でした。
時が経ち、その感動ももはやだいぶ薄れ、自宅でちょっとした録音をした後にササッとピッチ補正をする、なんてのも日常茶飯事?になってきています。
それが良いか悪いかは、いろいろな考え方があるでしょう。
そのあたりも後ほど考えてみたいと思います。
つづきます。