今回は「ピッチ補正」について書いてみます。
レコーディングや、いわゆる宅録(自宅録音)のご経験がない方には、もしかしたら聞きなじみのない言葉かもしれませんね。
ピッチ補正というのは、録音された歌や楽器の音程を専用のソフト(アプリ)を使って補正することを言います。
今やプロからアマチュアまで多くの録音作品で、当たり前のようにこのピッチ補正が施されています。
ご存知ない方は意外に思うかもしれませんが、一般的に歌唱力が高いと言われている歌手の録音でもほとんどはピッチ補正が施されています。
その理由や、ピッチ補正をすることの是非は後述するとして、まずはピッチ補正の簡単な歴史、そしてピッチ補正ソフトとはどんなものなのかを紐解いてみましょう。
本来、ピッチ(Pitch)とは正確には音程を意味する言葉ではなく、正確な音の高さにチューンすることを言います。ちなみに音程は、ある音とある音の音高の差のことで、英語ではインターバル(Interval)と言います。
ところが日本では、ピッチ=音程として用いられていることもまるで珍しくありません。
でも、この違いをしっかり認識しておくことで、音楽表現の幅は大きく変わってくる、というのは個人的な考えです。
これについてもまたあらためて書いてみたいと思っています。
さて、今ではソフト(アプリ)を使って誰でも簡単に行うことができるピッチ補正ですが、これは具体的に言うと「スピード(長さ)を変えずに音高を上げたり下げたりできる」ということです。
これでピンときた人はアナログ世代かもしれません。w
アナログのメディアで音高を上げ下げしようと思ったらどうすればいいか。
そうです。
再生のスピードを速くしたり遅くしたりすればいいのです。
逆に言えば、再生スピードを変えると一緒に音高も変化してしまうのがアナログの録音物です。
レコードとかカセットテープとか。
前述したようにピッチ補正には、スピード(長さ)を変えずに音高だけを変化させる必要がありますよね。
だから音楽のレコーディングがアナログでしかなかった時代には、ピッチ補正は夢のような技術でした。
アナログでできたことと言えばテープのつぎはぎくらいでした。(それだけでもかなりいろんなことができたし、いろんなことが試されましたが。)
それが80年代以降のデジタル化によって少しづつ変わってきます。
まずサンプラーの登場があります。
サンプラーは外部からの音をデジタル化して取り込み、それを音素材として記憶・再生させる機材です。
Ensoniq、E-MU、AKAIといったメーカーからたくさんの製品が発売されました。
一般化された頃の多くのサンプラーには、録音された音素材の音高を変化させる機能と、音素材の再生時間を伸ばしたり縮めたりする機能がありました。
サンプラーも、ただ音高を上下させるだけだとスピード(長さ)も一緒に変化してしまうのですが、
2つの機能を組み合わせることで、スピードを変えずに音高だけを変化させることも、音高を変えずにスピードだけを変化させることも可能になりました。
ただ、実際には言うほど簡単ではなく、正確に処理しようと思ったら難しい計算が必要でした。
だからそういう使い方をしていた人は多くないんじゃないかな。
私は当時、父親に頼んで計算式を教えてもらいました。
今やその計算式も使う必要がなくなり、どんなものだったか忘れてしまいましたが…。
しばらくするとスウェーデンのPropellerhead社がReCylce!というソフトを開発します。
これはサンプリングした音素材を自動的に細かく切り刻んでくれるというソフトで、こんなの今では当たり前ですが、当時はめっちゃ画期的なシロモノでした。
これによって、元の音素材の一部の音高だけを上げ下げすることが容易になりました。
それでもなお、ピッチ補正という使い方をするにはめちゃくちゃ大変だったと言わざるをえませんが…。
…ヤバい。
めっちゃ長くなっちゃう…。
ここでいったん〆ます。w
つづきます。